世界で初めてカルシウムイオン濃度を可視化(カルシウムイメージング)した、神経科学界のレジェンド的存在、工藤佳久先生のカルシウムのコラム
〜カルシウム吸収・免疫・骨の健康を支える栄養素〜
〜カルシウム吸収・免疫・骨の健康を支える栄養素〜
ビタミンDとの出会い
私が小学校に入学したのは太平洋戦争が終わった 次の年で、食料事情は最悪でした。しかし、4年ほど経ったときに ”硬い” パンと脱脂粉乳だけの給食が始まりました。とても嬉しかったのですが、パンはボロボロで、脱脂粉乳は今考えるとかなり水っぽく、腹ペコの私でも美味しく食べたという記憶はありません。けれど、週に1~2回くらい給食の際、「エデック」と呼ばれる現在のグミに似た食感の小さな ”お菓子” が一粒ずつ配布されました。表面に砂糖がまぶしてありました。これは私にとって待ち遠しいお菓子でした。先生が「これを食べると丈夫になれるぞ」といいながら、大きな瓶から一粒ずつ配布してくれました。このエデックが肝油製品名で、タラやサメの肝臓から抽出したビタミンAとビタミンDを含む栄養剤であったことはかなりの年齢になってから知りました。そして、「エデック」という名称がビタミンAのエーとビタミンDのデーが元になっていること、鳥目(夜盲症)、骨・歯の発育不良、くる病の予防として配布されたことも知りました。今回のテーマ、ビタミンDはカルシウムの吸収を高め骨の発育に必須なビタミンです。日光浴をすると体内で産生されるという不思議な物質なのです。
ビタミンDは二種類ある
ビタミンDについては、ビタミンD、D3、まれにD2と書かれているのですが、ビタミンDと呼ばれる場合はD2とD3の総称です。ではビタミンD1はないのかといいますと、そう、ないのです。植物性由来のD2と動物由来のD3を混同し、両者を区別しないで、ビタミンDと呼んでいたための混乱です。このビタミンD2とビタミンD3の効果には違いがあるのです。D3(コレカルシフェロール)は動物性(魚や卵)で、油溶性が高く吸収されやすいビタミンです。一方、D2(エルゴカルシフェロール)は植物性(きのこ類や乾燥食品)に含まれますが、カルシウム吸収促進効果はビタミンD3に比べると劣ります。もちろんD2でも摂取すればそれなりの効果はあります。
日光浴が体内に造るビタミンD3
先に述べたように、太陽光(UV-Bと呼ばれる紫外線)を浴びると、皮膚のコレステロールからビタミンD3が生成されるのです。これは骨の健康や免疫力向上に役立ちそうですね。しかし、目安は夏なら15〜30分、冬は30分〜1時間程度が必要とのことです。これって結構大変ですね。日焼け止めなしで、顔や手、腕を直接日光に当てることが効率的ですが、窓ガラス越しでは紫外線が入らず生成されませんし、もちろん日かげでは効果が低いのです。北欧など太陽光が弱い地域では天気の良い日は日光浴をするようです。その効果がビタミンD3の自己産生であるとは近年になってから解明されるのですが、自宅や広場の芝生の老若男女がごろごろ寝転がっている様子を想像すると、ちょっと引きますね。また、日光を浴びすぎると、シミやシワの原因になるので注意が必要です。ビタミンD3の錠剤やエデックのようなサプリメントの方が無難な気がします。

ビタミンDは体内で活性型に変化する
ビタミンDは油によく溶けますから、脂っこい食事として摂取されます。けれど、そのままでは機能しないのです。おそらく油に溶けたままでは生体内での反応性が低いためだと考えられます。図1はビタミンDが摂取されてから活性化されるまでのプロセスを示しています。この活性化は肝臓と腎臓との2段階で行われます。図1に示すように、腸から吸収されたビタミンD(VDと略す)は、肝臓で「水酸基(OH)が一つ加えられた活性型ビタミンD(25(OH)VD」になり、さらに腎臓でもう一つ水酸基が加えられて、最終的な活性型、「1,25(2OH)VD」になるのです。水酸基が二個結合することにより、水になじみやすくなり、体内での化学反応が生じやすくなるのだろう思われます。この活性型ビタミンDはカルシウムの吸収を促進し、骨形成とその維持に貢献します。それだけではありません。「適切な血中カルシウム濃度の維持」や「免疫の機能の調節:ウイルスに対する免疫反応の調節と促進」さらに「筋肉の維持、筋力の増強」など重要な仕事に幅広く関与するのです。
ビタミンDが不足するととんでもないことになる
当然ですが、ビタミンDが不足するとカルシウムの供給が減少します。その結果は骨粗鬆症、骨折リスクが増すことは当然です。骨がもろくなり、軽い衝撃で骨折しやすくなるばかりではありません。ビタミンD不足で発症する骨軟化症は「くる病」とも呼ばれる疾患です。骨が十分に硬くならないので脊椎骨が直立を保てず、前屈みになってしまうのです。O脚など骨変形も生じます。そこまで重症でない場合でも、筋力低下や慢性疲労が生じ、太ももや体幹の筋力が低下し、歩行時のふらつきや慢性的な疲労や倦怠感が発症するというのです!さらに、免疫力低下によりウイルスや細菌に対する抵抗力が落ち、風邪や感染症にかかりやすくなります。また、気分の落ち込み、抑うつ傾向がビタミンD不足の結果だったということもあるようです。さらに、動脈硬化、高血圧、糖尿病などの生活習慣病リスクが高まる可能性まであるとのことです。ビタミンDがこれほど重要なものであることを、これを書いている私も初めて知りました!「エデック」は今でも手に入るのだろうか、探してみよう。
図の説明
ビタミンD(VD)は小腸で吸収され、肝臓で水分子が結合し25(OH)VDになり、腎臓でさらにもうひとつ水分子が結合し て活性型の1,25(2OH)VDになります。(1と25はVD分子構造の位置を示す番号です)
まとめ
- ビタミンDは骨の健康を支えるだけでなく、免疫や筋力維持にも関わる重要な栄養素です。
- 魚や卵などの食品摂取に加え、適度な日光浴によって体内でも生成されます。
- 体内で活性化されたビタミンDは、カルシウム吸収を促進し健康維持をサポートします。
- 不足すると骨や筋肉、免疫機能に影響を及ぼすため、日頃から意識的な摂取が大切です。
監修
工藤佳久 先生
1964:名古屋市立大学・薬学部卒
1964-1968:興和株式会社東京研究所勤務(この間、名古屋市立大学、和歌山医科大学、大阪市立大学・医学部へ国内留学)
1968-1978:名古屋市立大学 薬学部 助手、講師、助教授
1978-1995:三菱化学(三菱化成)生命科学研究所 主任研究員、脳神経薬理学研究室・室長、脳神経科学部・部長
1995-2005:東京薬科大学・生命科学部 教授
2003-2007:特定領域研究「神経グリア回路網」総括班長
【著書】「神経生物学入門」 (朝倉書店、2001年)、「神経薬理学入門」(朝倉書店、2003年)、「生命学がわかる」工藤・都筑共著(技術評論社、2008年)
工藤佳久著・図「改訂版 もっとよくわかる!脳神経科学」(羊土社2019)など